【後継者向け】事業承継税制は本当にお得?「猶予」の落とし穴と判断の仕方

「事業承継税制を使えば、株の税金がチャラになるらしい」——後継者なら一度は耳にする話だと思います。
私も家業を継ぐ立場として、この制度を前のめりに調べた時期がありました。

ただ、調べれば調べるほど、ひとつ引っかかる点が出てきます。

この記事では、事業承継税制に飛びつく前に確認しておきたい「猶予」という言葉の意味と、後継者が判断するときの基準をお伝えします。
節税額の大きさだけで決めると、あとから後悔する可能性があるからです。

目次

事業承継税制とは、株の税金を「待ってもらう」制度

事業承継税制は、後継者が会社の株を引き継ぐときにかかる贈与税・相続税を猶予する制度です。

長く続いている会社ほど、非上場株式(市場で売買されていない自社の株)の評価額が高くなっていることがあります。
その株を引き継ぐと、評価額に応じた税金がかかります。
これが数百万円から、場合によっては数千万円という単位になることもあります。

特例措置(手厚い内容の期間限定版)を使えば、この税金の全額が猶予の対象になります。
手元の資金を使わずに株を引き継げるわけですから、魅力的に見えるのは当然です。
制度の詳細は、中小企業庁のページで確認できます。 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

見落としやすいのが「免除」ではなく「猶予」だという点

ここで一度立ち止まりたいのが、この制度は「免除」ではなく「猶予」だということです。

免除なら、税金は払わなくてよくなります。しかし猶予は違います。払うのを待ってもらっているだけです。
そして、待ってもらう代わりに、いくつかの条件を満たし続ける必要があります。

私が手を止めたのは、この条件の中身を見たときでした。

猶予を続ける条件は「会社をこの形でキープすること」

条件をかみくだくと、おおむね次のようになります。

・後継者は代表者の座を降りられない
・引き継いだ株は手放せない
・本業を続けなければならない

このどれかを満たせなくなった瞬間に、猶予は打ち切られます。
そして、待ってもらっていた税金を、利子税(待ってもらった期間に応じて上乗せされる税金)まで含めて納めることになります。

取消しになる具体的な条件は、先ほどの中小企業庁のページに掲載されています。

国の立場からすれば、これは当然の設計です。
税金を待つ理由が「その事業を続けてもらうため」なのですから、続けない人を優遇する理由はありません。

つまりこの制度は、平たく言えば「税金を待つから、会社をこの形のままキープしてください」という約束だと私は理解しています。

後継者にとっての本当のコストは「作り変える自由」

ここからは、後継者としての私の考えです。

事業承継は「先代が作ったものを守ること」だと語られがちです。
暖簾を守る、襷をつなぐ、という言い方をよく聞きます。

ただ、私は後継者の一番の強みは「作り変えられること」にあると思っています。
ゼロから起業するのに比べて、すでにある土台の上で会社を別の形に組み替えられる。これは恵まれたポジションです。

なぜ作り変える前提で考えるかというと、多くの中小企業の事業は、すでに時代とずれ始めているからです。
先代が事業を立ち上げたのは何十年も前で、その当時の正解で作られています。
時間が経てば、時代とのずれが出てくるのは自然なことです。会社が悪いのではなく、ただ時間が経っただけです。

問題は、そのずれた事業を「このまま守れ」と縛られることです。
守れば守るほど、今の延長線上を走り続けることになります。
事業承継税制の条件は、まさにこの「固定」を求めてきます。

数百万円、場合によっては数千万円の税負担が浮くのは、無視できない金額です。私も無視できません。
それでも、その金額のために「会社をこの形で固定します」と約束するのは、会社を変える自由を何年も預けることだと感じています。
変えなければ生き残れないかもしれない会社の、変える権利を、です。

どう判断すればいいか

では、後継者はこの制度をどう判断すればいいのでしょうか。
私は、まず自分にこう問いかけることをおすすめします。

「自分は、この会社を作り変えるつもりがあるか」

作り変えるつもりがあるなら、固定の縛りは重荷になります。
一方、事業の形を大きく変えるつもりがなく、長く同じ事業を続けていく方針なら、この制度はきれいに当てはまります。
判断は「どちらが得か」ではなく、「自社をどうしたいか」で決まります。

縛りを避けたい場合の代替策のひとつが、時間をかけて少しずつ株を渡していく方法です。
一度に渡そうとするから税金がまとまってかかります。何年もかけて計画的に分けて渡せば、会社を縛らずに済みます。
派手さはありませんが、後継者がいつでも会社を作り変えられる状態を保てます。

ただし、株の評価額や会社の状況によって最適なやり方は変わります。
具体的な進め方は、必ず税理士と一緒に詰めてください。

期限についての注意点(2026年6月時点)

事業承継税制の特例措置を使うには、事前に「特例承継計画」(承継の方針をまとめた計画書)を都道府県に提出する必要があります。この提出期限が、令和8年度の税制改正で延長されました。

・法人版:2026年3月31日 → 2027年9月30日まで
・個人版:2026年3月31日 → 2028年9月30日まで

注意したいのは、計画の提出期限は延びましたが、実際に株を贈与・相続する「適用期限」は延びていない点です。
法人版の適用期限は2027年12月31日のままで、今後も延長されない見込みとされています(東京商工会議所、税理士法人山田&パートナーズの解説より)。 https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/task/zeisei2/

「計画提出があと1年以上あるから」と構えていると、肝心の承継の実行が間に合わなくなる可能性があります。
使うと決めたなら、逆算して早めに動く必要があります。

おわりに

事業承継税制は、たしかに税負担を大きく軽くできる制度です。
同時に、会社をその形のままキープするという約束とセットになっています。
節税額の大きさだけで判断せず、「自社をこの先どうしたいか」を起点に考えてみてください。

明日からできることとしては、まず一度、自社株の評価額を税理士に試算してもらうことをおすすめします。
そもそもの税負担がどれくらいなのかが分かれば、この制度を本気で検討すべきかどうかの判断材料になります。

「税金が浮く」という入口ではなく、「自分は会社をどうしたいのか」という出口から考える。
それが、後悔しない判断につながると私は考えています。

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